クロマグロに次いで高級とされるミナミマグロの流通価格が急落し、漁業者が悲鳴を上げています。魚市場では高級魚として扱われるミナミマグロですが、その認知度の低さから需要が低下し、多くの漁船が赤字を余儀なくされています。本記事では、ミナミマグロの現状とその影響について解説し、漁業者が直面する課題とその解決策についても探ります。
市場の評価が高い「通好み」
ミナミマグロは南半球で漁獲され、冷凍ものが日本国内で流通しています。上質なトロや赤身が取れることから、東京・豊洲市場などで高く評価されています。豊洲の競り人は、「クロマグロよりも赤身が甘く、すしでは酢飯との相性が抜群。本マグロの人気は根強いが、(ミナミマグロは)隠れた1位」と太鼓判を押します。しかし、消費者へのアピール度は低く、市場関係者は「クロマグロやメバチマグロに比べて認知度が低く、どこで売っているのか、食べられるのか、一般にはあまり知られていない」と話します。
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ミナミマグロが陸揚げされる静岡県の焼津港や清水港、神奈川県の三崎港周辺ではすし店などでおなじみですが、東京都内をはじめスーパーなどでは見かけることはほとんどありません。このように、「通好み」とも言える状況が続いています。さらに、高級魚としての評価がありながら、その認知度の低さが価格の急落に拍車をかけているのです。
流通量回復で価格急落
遠洋マグロはえ縄漁業などの全国組織である日本かつお・まぐろ漁業協同組合によると、2022年度は新型コロナウイルス禍でマグロの輸入が減少し、冷凍マグロ全体に品薄感がありました。そのため、清水港でのミナミマグロの水揚げ価格は上昇しました。しかし、2023年度には流通量の回復が進み、清水港でのミナミマグロの大型魚(40キロ以上)は1キロ当たり1500円ほどと、価格が前年度に比べ4割急落しました。
クロマグロやメバチマグロと比べても落ち込み幅が大きく、漁業者へのダメージは深刻です。ミナミマグロを漁獲するマグロはえ縄漁船は、流通の大半を占めるメバチマグロも多く漁獲します。しかし、ミナミマグロ価格急落や、燃油や資材の高騰、円安などの影響で、「およそ75隻の漁船は1隻当たりの水揚げ金額が7000万円ほど減り、ほとんどの漁船が赤字。こんなことは過去になかったのではないか」と同協組は窮状を訴えています。
このような価格急落の背景には、国際的な流通の変化も影響しています。新型コロナウイルスの影響で一時的に流通が停滞し、その後急速に回復したことで、一時的な供給過多が生じたのです。また、円安による輸入コストの増加も漁業者にとって大きな負担となっています。
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漁の継続に危機感、認知度向上へ
日本かつお・まぐろ漁業協同組合は、このような魚価安が続けば「漁業経営を継続できず、漁業関係者だけでなく、流通も含めて大きな影響を受けることになる」と危機感を募らせています。ミナミマグロを漁獲する漁船は遠洋マグロ漁船の半数を占めており、スーパーなどで販売される主力のメバチマグロの漁獲・流通量も左右しかねないため、食卓への影響も心配されています。
この状況を回避し、漁業を継続させるため、同協組はミナミマグロの認知度向上に乗り出しました。6月末からユーチューブで動画を公開し、「ミナミマグロはどんな魚か、味の特長や解凍方法、どこで買えて、どこで食べられるのか、たくさんの情報を発信していきたい」と意気込んでいます。さらに、SNSを活用した広報活動や、試食イベントの開催など、消費者への直接的なアプローチも検討しています。
農林水産省のまとめによると、ミナミマグロの年間漁獲量は2023年が約6100トン。クロマグロの半分ほどで、メバチマグロと比べると4分の1程度ですが、資源が回復傾向にあり、近年の日本の漁獲枠も増加傾向にあります。クロマグロの次に価値あるマグロとして今後も利用していくためには、魚名やおいしさのアピールが重要です。
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認知度向上への具体的な取り組み
認知度向上のためには、消費者に対してミナミマグロの魅力を伝えることが不可欠です。同協組は、「ミナミマグロはどんな魚か」をテーマにした教育コンテンツの制作も進めています。特に、小学校や中学校の家庭科の授業で取り上げられるよう、教育機関との連携を図ることも視野に入れています。
また、地域のすし店やレストランと協力し、ミナミマグロを使った特別メニューを提供するキャンペーンも計画中です。こうした取り組みを通じて、消費者に直接ミナミマグロの味を知ってもらい、その魅力を実感してもらうことを目指しています。
さらに、オンライン販売の拡充も重要です。現在、一部の専門店でのみ購入可能なミナミマグロを、より広範囲の消費者が手軽に購入できるようにするため、インターネット通販の利用を促進しています。特に、冷凍技術の向上により、家庭でも高品質なミナミマグロを楽しめるようになってきています。
まとめ
ミナミマグロの価格急落により、多くの漁船が赤字を余儀なくされている現状は深刻です。認知度の低さが需要低下の一因となっているため、漁業関係者や市場関係者はその改善に向けた取り組みを始めています。ミナミマグロの認知度を向上させることで、漁業経営の継続を図り、食卓への影響を最小限に抑えることが求められています。
今後もミナミマグロの価値を広く伝え、その魅力を享受できるよう、様々な取り組みが期待されます。認知度向上のための努力が実を結び、消費者がその美味しさを理解し、購入する機会が増えることで、漁業者の経営も安定することが望まれます。